医誠会病院の低侵襲医療
第3回 脳への血流を回復させる手術 頚動脈ステント留置術(CAS)

血管の狭窄(血の流れる部分が狭くなる)
高血圧、糖尿病等の生活習慣病、喫煙、加齢等により動脈硬化が生じ、結果血管壁の内部にプラークと呼ばれる脂質や出血の混在した軟らかい(粥状と表現されます)物質が貯留し狭窄が起こります。狭窄は全身の血管に生じますが、実際に問題となるのは、心臓の冠動脈、下肢に供血する大腿動脈、脳に血流を送る頚動脈などが主に挙げられます。
頚動脈の狭窄ではどのような問題が生じるでしょうか?
狭窄による血流低下・途絶による脳梗塞がイメージされますが、血管内腔に隆起したプラーク表面の膜が破綻することでプラーク自体が飛散したり、露出プラーク表面に血栓が形成され飛散することで、その先の脳や眼の血管を閉塞して症状が出る場合が多いです。
頚動脈狭窄による主な症状(一過性または持続性)
- 体の片側の上肢・下肢に力が入らない
- ろれつが回らない、言葉が表出できない・伝わらない
- 片方の視界が真っ暗になる、視界の一部がぼやける
頚動脈の狭窄が見つかった場合はどう対処すべきでしょうか?
頚動脈狭窄症は、一過性・持続性であれ痺れ、めまいなど症状が出ることで分かる(症候性頚動脈狭窄)場合と、別の検査等で偶発的に見つかる(無症状性頚動脈狭窄)があります。どちらの場合でも、まずMRIや頸動脈エコーの非侵襲的検査にておおよその頚動脈狭窄の程度(狭窄率)を調べます。症候性頚動脈狭窄であれば狭窄率50%以上、無症状性頚動脈狭窄であれば狭窄率60%(最近では70%)以上の強い狭窄の場合は抗血小板薬による内科的治療のみではなく、狭窄の原因を手術によって取り除く方が、以降の脳梗塞の発生頻度が低いことが分かっています。上記狭窄率より強い狭窄が想定される場合は、入院し術前検査のカテーテル検査を行い、その結果いかんでは手術を行います。
頚動脈狭窄症の手術にはどのようなものがあるのでしょうか?
頚動脈血栓内膜剥離術(CEA)と頚動脈ステント留置術(CAS)の2つの治療方法があります。CEAは1950年代より行われている手術で、頸部皮膚を8cm程度切開し、経度王脈からプラークそのものを除去し狭窄を解除します。一方のCASは2008年より保険適用となった新しい治療法で、足の付け根にある大腿動脈の血管内部から頚部までカテーテルを通し、ステントと呼ばれる円柱状のメッシュ金属(写真1)で頚動脈狭窄を解除する方法です。下の表のように両治療法を比較すると、CEAは体表近くでの手術で、高侵襲な手術にはあたりませんが、全身麻酔と頚部切開が必要なため、患者さんにとって負担に感じられる部分が多くなります。逆にCEAはCASが苦手とする、より柔らかいプラークや血管蛇行が強い場合でも治療が可能で、手術合併症のリスクも軽減できます。医誠会病院脳卒中センターでは、術前に十分な検査を行い、CEA・CAS双方の治療法を多数行っている術者が、各治療法の長所短所を十分に勘案し、患者さんに説明させていただいています。患者さんが最も安全な治療を受けられるように、真の低侵襲治療を今後も提供していきます。
頚動脈血栓内膜剥離術(CEA)と頚動脈ステント留置術(CAS)の長所と短所
医誠会病院のCEA・CAS手術数推移
2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | |
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CAS | 15 | 14 | 18 | 14 | 12 | 12 | 27 |
CEA | 2 | 9 | 11 | 12 | 4 | 7 | 7 |