整形外科における再生医療の役割 肩腱板断裂治療のアルゴリズム 不全断裂 小断裂 中~大断裂 一次修復不能広汎性断裂 保存療法(リハビリ:運動療法/物理療法) 手術療法 幹細胞治療 関節鏡下腱板修復術 腱移行術、腱移植術、リバース型人工関節 幹細胞とは? 幹細胞とは「すべての細胞の基盤となる細胞」で、さまざまな細胞に変化する “多分化能”と 自分自身を増やすことができる“自己複製能” を持つ細胞です 幹細胞の種類 多能性幹細胞 どんな細胞にもなれる、“万能細胞” ES細胞(胚性幹細胞) 受精卵を壊して作製 iPS細胞(⼈⼯多能性幹細胞) 体の細胞に遺伝⼦を導⼊して作製 体性幹細胞 多分化能はある、“前駆細胞” 間葉系幹細胞 同種 他人のもの(第一種*) 自己 自分のもの(第二種*) * 再生医療等安全性確保法 私が幹細胞治療に用いているのは、体性幹細胞の一つである間葉系幹細胞です。 他人のもの、すなわち同種を用いる方法もありますが私が用いているのは患者さん自身、すなわち自己の間葉系幹細胞です。 間葉系幹細胞の働き 組織修復作用 分化能 幹細胞そのものが損傷部に付着し、その部位の細胞になる パラクライン効果 幹細胞が成⻑因⼦を分泌し近くの細胞に働きかけ、活性化させ組織修復を促す エンドクライン効果 幹細胞が成⻑因⼦を分泌し⼤循環を介して遠⽅の細胞を活性化し、修復を促す 抗炎症作用 幹細胞が分泌するサイトカインや成長因子による 免疫調整作用 幹細胞が分泌する因子が、免疫細胞の増殖、活性化、分化を直接的に抑制したり、促進したりする 自己間葉系幹細胞は患者さん自身の骨髄や皮下脂肪から分離培養ができ安全面や倫理面の問題が少なく、多分化能があるため今日の幹細胞治療の主流になっています 脂肪組織由来の間葉系幹細胞を採用 理由 脂肪組織には幹細胞が多く含まれる(骨髄中の500倍) 皮下脂肪からの採取は全身から可能、また患者への負担も少ない 骨髄由来と比べ、高齢者のものでも増殖能力が高い 骨髄由来と比べ、様々な成長(増殖)因子が産生される 間葉系幹細胞の製造工程 脂肪組織の採取 脂肪組織は、局所⿇酔の後、下腹部から⽪下脂肪をほんの少し(0.5g ほど)採取します。傷⼝は1㎝未満と⼩さく、ほとんど⽬⽴ちません。 脂肪組織から間葉系幹細胞を分離培養 採取した脂肪を細断し分離基材へ HAコーティング不織布(幹細胞分離基材) 6 well plate 約2週間 間葉系幹細胞の分離培養 0日目 13日目 増殖した間葉系幹細胞を分離基材から剥がし、フラスコ内へ移し、約2週間の拡大培養へと移ります。品質を保つため、継代培養は2回までとし、必要量まで細胞数を増やします。 day 0 day 2 day 5 「皮下脂肪の採取からここまでの工程」が計4週間です 投与当日の朝に、生理食塩水4cc あたり1億個以上に調整した幹細胞浮遊液のシリンジを2本作ります。 幹細胞浮遊液を腱損傷部位へゆっくりと2本注入します。(間葉系幹細胞 計3億セル) 野球肩の診断治療アルゴリズム 重症の野球肩では腱板損傷、関節唇損傷、靭帯損傷といった軟部組織の複合損傷を伴っているため、現行の再建手術では安定した手術成績が出せません。 このようなスポーツ障害肩に対して、幹細胞治療は有力な武器(ゲームチェンジャー)になるのでないかと考えています。 二択から三択への時代へ 整形外科における再生医療の役割を考えるとき、「手術は嫌ではないが、仕事やスポーツ活動は極力休みたくない患者さん」また「手術の大変さを考えるとなかなか決心が着かず、漫然と保存的治療を続けている患者さん」などに対して、幹細胞治療が第3の選択肢として市民権を得る日もそう遠くない気がします。