無痛分娩をお考えの方へ
出産時の痛みは、子宮の収縮や産道が広がることで生じ、その痛みは脊髄を通じて脳に伝わります。無痛分娩に使われる「硬膜外麻酔」は、体の一部だけに効く「区域麻酔」の一種で、こうした痛みをやわらげるために行われます。これは、子宮や産道からの痛みの信号を脊髄の段階でブロックすることで、出産時の痛みを軽減する方法です。
また、出産中に自分でいきむ力を出せるよう、手術の時のように、完全に神経をマヒさせてしまうのではなく、痛みを軽減して安全にお産を進めることが目的であるため、「和痛分娩」とも呼ばれます。ただし、同じ薬や方法を使っても、痛みの感じ方には個人差があるため、場合によっては期待通りに痛みが取れないこともあります。
デメリットがあり、慎重な管理が必要です
無痛分娩には、陣痛が始まったり破水した後に麻酔を行う「オンデマンド型」と、あらかじめ予定を立てて行う「計画無痛分娩」の2つの方法があります。当院では、硬膜外麻酔を用いた計画無痛分娩を行っています。
JALA（無痛分娩関係学会・団体連絡協議会）の登録施設です
当院は、JALA（無痛分娩関係学会・団体連絡協議会）が運営する登録制度に基づき、登録施設として認定されています。詳細はJALA公式サイトをご参照ください。
JALA（無痛分娩関係学会・団体連絡協議会）
無痛分娩の方法
麻酔の方法
腰のあたりからカテーテルを背中に入れて、麻酔薬を投与します。
カテーテル挿入後、陣痛促進剤を使って陣痛を起こします。陣痛が規則的になり、妊婦さん自身が希望されたタイミングで、状況を見ながら無痛分娩を開始します。麻酔の効果は、通常数十分で現れてきます。ただし、分娩の途中でカテーテルの位置がずれて麻酔の効き方が変わってしまったり、左右で効き具合に差が出ることがあります。そのような場合には、カテーテルの位置を調整したり入れ直したり、麻酔薬を追加して対応することがあります。
方針
子宮頸管の状態（やわらかさや開き具合）や赤ちゃんの大きさによっては、直前に分娩の日程を調整することがあります。計画分娩は、妊娠38週から39週頃を目安に入院の予定を立てますが、それ以前に自然に陣痛が来たり破水した場合には、無痛分娩が行えないこともあります。また、予約枠に空きが出た場合は、キャンセル待ちをご希望された方に順番にご連絡し、入院日程をご案内します。
無痛分娩は、経腟分娩を行ううえで必須ではありません。そのため他の患者さんの緊急対応や、状況によっては無痛分娩をご希望いただいても対応が難しい場合がありますのであらかじめご了承ください。
手順
横になり、背中を少し丸める姿勢をとっていただきます。背中を消毒し、腰のあたりに局所麻酔をして痛みを感じにくくします。次に、細いカテーテルを背中に挿入し、少量の麻酔薬を使ってカテーテルの先端が正しい位置にあるかを確認します。その後、数回に分けて麻酔薬を投与し、麻酔が効いているかどうかを確認します。冷たいものを使って感覚を確認する「コールドテスト」などを行い、目的の部分に鎮痛効果が出ているかを確認します。
血圧計や心電図、パルスオキシメーター、胎児心拍モニターなどを使って、お母さんと赤ちゃんの状態を確認します。分娩の進み具合だけでなく、麻酔の効果や副作用などについても定期的にチェックします。もし分娩中に急な痛みが出たり、麻酔の効き方に左右差があると感じた場合は、遠慮なくスタッフにお知らせください。出産後の処置がすべて終わったら、背中のカテーテルは抜去します。
適応と禁忌
適応
- 本人より希望があった場合
- 持病等により、身体へ負担をかけない方が望ましい場合
※ 肥満（20週まででBMI30以上、36週まででBMI32以上）の方は当院の基準により適応外です。
対応可能な疾患
心疾患、IgA腎症など血圧上昇が好ましくない疾患をお持ちの方にも、無痛分娩の実施が可能です。ぜひご相談ください。
禁忌
血液凝固異常、重度の脊椎疾患、感染症などがある場合
メリット
陣痛の痛みを和らげることで、痛みによるストレスが軽減され、分娩後の母体の体力回復が早まる場合があります。
デメリット
無痛分娩には、いくつかの副作用やリスクが伴うことがあります。
硬膜外麻酔を行った後は、お母さんの心電図・血圧・酸素飽和度をモニターで常に確認し、医師が状態を観察します。また、赤ちゃんの心拍も継続してモニタリングします。万が一、副作用や合併症が起こった場合には速やかに適切な対応を行います。ただし、十分注意をしても予測できない合併症もあり、すべてを事前に説明しきれるものではありません。以下に代表的なものを記載していますが、それ以外の可能性があることもご理解ください。
代表的な副作用や合併症
- 分娩遷延：分娩が長引くことがあります。この場合、陣痛促進剤の投与や吸引分娩などの医療的介入が必要になる可能性が高くなります。
- 血圧低下：無痛分娩の間に血圧が下がることがあります。
- 胎児心拍数の低下：自然分娩中にも起こりますが、無痛分娩中にも赤ちゃんの心拍数が下がることがあります。この場合、お母さんに酸素を投与するなどの処置を行いますが、心拍数が戻らないときは緊急帝王切開となることがあります。
- 発熱：硬膜外麻酔や分娩が長引くことによる筋肉の負担で、38℃以上の発熱が起こることがあります。
- かゆみ：麻酔薬の影響でかゆみを感じることがあります。
- 腰痛・下肢の神経障害：分娩後に腰痛や足の神経に関わる問題が出ることがあります。麻酔が原因となることもありますが、分娩そのものが原因の場合もあります。
極めて稀な重篤な合併症
- 局所麻酔薬中毒：麻酔薬の過量投与や、血管への誤注入により起こることがあります。初期症状として、口のしびれや耳鳴りなどが現れ、痙攣を起こすこともあります。
- 高位・全脊髄くも膜下麻酔：通常より深い場所（くも膜下）にカテーテルが入ってしまうことで、足が動かない、腕のしびれ、呼吸停止、意識消失を起こすことがあります。
- 硬膜外血腫・膿瘍：麻酔の針を刺すときやカテーテルを抜くときに、背中の神経の周りに血腫ができ、神経を圧迫してしびれや運動障害を起こすことがあります。また、カテーテルを入れた部分に細菌が入り、うみがたまる「硬膜外膿瘍」ができることもあります。どちらも、症状が出た場合はMRIなどの画像検査と、整形外科による手術で取り除く必要があります。
- 薬剤アレルギー・アナフィラキシーショック：使用する薬に対してアレルギー反応が起こることがあります。重症の場合は、急激な血圧低下や意識障害などを引き起こす「アナフィラキシーショック」になることがあります。
リスク
痛みが抑えられているため、強い痛みを伴う異常（子宮破裂や常位胎盤早期剥離など）が起きた際に、発見が遅れる可能性があります。また、産後は子宮の収縮が弱くなることがあり、無痛分娩や吸引分娩の影響も加わることで、出血量が増える傾向があります。これらは無痛分娩に限らず、通常の分娩でも起こり得ます。分娩は状況が常に変化するため、予測できない偶発症が起こる可能性があり、そのような場合に緊急の医療処置を行うことがあります。
赤ちゃんへの影響
陣痛促進剤を使用することにより過強陣痛が起こると、赤ちゃんが一時的に酸素不足になる可能性があるため、分娩中は継続的に胎児心拍モニターを使用します。
また、吸引分娩や子宮底圧迫が必要になることがあり、赤ちゃんの負担が増える可能性があります。自然分娩とは異なるため、赤ちゃんが環境に適応するまでに時間がかかることもあります。入院して治療が必要になる場合もあり、母児同室や退院が予定通りにいかないこともあります。当院では、緊急時にも適切な対応ができるよう体制を整えています。
上記のリスクに対応するためには十分なスタッフ体制が必要です。当日の状況によってスタッフの確保が難しいと判断された場合や、赤ちゃんに大きな負担がかかっていると判断された場合には、無痛分娩を中止したり、帝王切開に切り替えることがあります。
入院後の流れ
1. 内診で子宮口の開きを評価し、分娩誘発の方針を決定します
2. 点滴確保後に硬膜外麻酔カテーテルを挿入します（分娩誘発と前後することがあります）
3. 分娩誘発を開始
- 入院時に頸管熟化が良好な場合
- 陣痛促進剤の点滴によって分娩誘発を始めます。
- 熟化不良の場合
- 入院日の午後に、ラミナリアなど吸水膨張して子宮頸管を拡張する器具や、小さめのバルーンを使って拡張を行います（この処置だけで夕方以降に分娩が進むこともあります）。翌朝9時から、陣痛促進剤の点滴による分娩誘発を開始します。大きめのバルーンに入れ替えて、頸管拡張することもあります。
- 麻酔を始めるタイミングについて
- 痛みの感じ方と内診での進行状況を総合的に判断し、麻酔を開始します。しばらく痛みを我慢していただくことがあります。
※子宮頸管の状態によっては予定通りに分娩が進まない場合があり、入院を延期したり、自然陣発後の対応になることがあります。
また、誘発しても効果的な陣痛が起こらず、分娩がほとんど進まないこともあり、一度退院し、陣発を待つことがあります。
硬膜外麻酔中の過ごし方
- 歩行
- 麻酔により足の筋肉が一時的に動かしにくくなるため、転倒するおそれがあります。麻酔開始後は原則としてベッド上安静です。
- 排尿
- トイレには行けません。また、排尿がしづらくなることがあり、必要に応じて、尿道カテーテルを入れて導尿を行います。
- 食事
- 麻酔で胃腸の動きが悪くなるため絶食となり、点滴で水分・栄養を補います。水や透明な飲み物は飲むことができます。
注意していただく症状
- 息苦しい、気分が悪い
- 感覚の変化や違和感
- 痛みが全く取れない
→ これらの症状があるときは、すぐにナースコールしてください
費用
無痛分娩費用 13万円～
無痛分娩をご希望の場合は、通常の分娩費用に加えて、無痛分娩費用を別途いただきます。無痛分娩は保険適用外となります。
また、分娩に至るまでの経過によっては、追加費用が発生する場合があります。
パンフレット/配布資料
